新たな食と農による社交を考える
コミュニケーションの進化とコロナ後の世界

2022.2.13 Sun. 12:50-13:50

総合地球環境学研究所 所⻑

山極壽一

講義の概要と目的

人類が生誕の地アフリカを出て、全大陸に複雑で大規模な社会を築くようになったのは、食の改変に伴う社会の進化があったからである。それは直立二足歩行による食物の運搬と共食、道具使用による肉食の増大、調理による消化効率の向上で、社会交渉の時間が増え、集団規模を大きくしたことによる。その結果、脳は社会脳として容量を増やした。1万2千年前の農耕・牧畜の開始によって集団の規模は急速に増大したが、現代人の脳に匹敵する150人は社会関係資本と呼んでもよく、現代でも信頼する仲間の数の上限を表している。これは共感力によって支えられたコミュニティの規模とも考えられ、今でも私たち人間の社会力の源泉である。それが今新型コロナウイルスによって危機に瀕し、新たな社交の構築が必要になっている。食の進化の歴史を踏まえて、未来の食をシェアとコモンズの拡大という観点から議論したい。

この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

食は人間の健康を支えるだけでなく、人間の社会力の源泉でもある。それが近年の農業の工業化や情報通信技術の発達によって孤食や中食が増え、社会的触媒としての力が衰えつつある。食は人間文化の中心でもあり、五感を用いて行う社交の手段でもある。人新世の到来とデジタル社会の登場で文化が希薄になりつつある現在、地球の危機を回避するためには食をめぐる生産―流通―消費の未来を再構築する必要がある。それは、自然と文化を切り離さず、多様性を重んじて在来知を含む総合知としての食文化を確立することである。さらに、食物の工業化による商品価値をシェアリングエコノミーを駆使した使用価値へと転換を図ることであり、未来社会のデザインに大きく寄与することが期待される。

講師プロフィール

京都大学理学部卒、理学博士。(財)日本モンキーセンターリサーチフェロウ、京都大学霊長類研究所助手、京都大学理学研究科助教授、教授を経て、2020年9月まで京都大学総長を務める。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、国立大学協会会長、日本学術会議会長、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員を歴任。2020年4月より総合地球環境学研究所所長を務める。環境省中央環境審議会委員。鹿児島県屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地でゴリラの行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。著書に『家族進化論』(東京大学出版会)、『暴力はどこからきたか(NHKブックス)、『サル化する人間社会』(集英社)、『ゴリラからの警告』(毎日新聞出版)、『スマホを捨てたい子どもたち』(ポプラ新書)、『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(朝日新書)など。

Day12022.2.4 Fri.
人類にとっての食

Day22022.2.5 Sat.
食の安全保障 食と農のテクノロジー1

Day32022.2.12 Sat.
食と農のテクノロジー2

Day42022.2.13 Sun.
食と農の未来

Day52022.4.9 Sat.

お申し込みはこちら

お申し込みは下記ページのエントリーフォームよりお願いいたします。

お申し込みはこちら

初めての方でもお気軽にお問い合わせください

お問い合わせはこちら

Tel. 075-753-5158

受付時間:平日 9:00〜17:00



Mail. info@elp.kyoto-u.ac.jp