穏健イスラームの可能性

スーフィズムの挑戦

東長 靖 TONAGA Yasushi
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 教授

講義概要

イスラームはとかく、頑迷・不寛容・過激・攻撃的といった印象を持たれがちである。このような一般的なイスラーム像は、戒律・イスラーム法を重視するアラブ諸国のイスラーム原理主義的な主張と密接に結びついている。本講義では、これと異なる、寛容で非暴力なもう一つのイスラーム像を提示してみたい。そのようなイスラーム理解は、非アラブ圏に広くみられる。イスラームといえば中東・アラブの宗教と考える人が多いと思うが、現在中東に住むイスラーム教徒は、世界総信徒人口の2割程度に過ぎない。また、このもう一つのイスラーム像が、しばしばスーフィズムに基づいていることも重要である。「イスラーム神秘主義」としばしば訳されるスーフィズムが、現代社会でいかに穏健イスラーム確立に貢献しているかを語ってみたい。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

私が学問をする時にいつも考えているのは、常識を打破するということである。そのために有用な手段として、時空間を異にするものを知ることが挙げられる。時間に関して言えば歴史を遡ってみること、空間に関して言えば異文化を体験してみることがこれに当たるだろう。本講義では、イスラームという私たちにふだんなじみのない社会文化システムについて知って頂く。自分たちと違う常識をもつ人々や文化に触れた時に、ひとは自分の常識が世界の常識でないことに気づく。また、西洋近代中心の知のあり方に対しても疑問をもつようになる。そういった新たな視点を手に入れたうえで、地球規模で現在私たちが直面している諸問題を考え直す契機に、本講義がなれば幸いである。

講師プロフィール

経歴

1960年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授。博士(地域研究)。イスラーム思想(とくにスーフィズム)が専門。中東地域を核としつつ、イスラーム世界を広く研究対象とする。文献研究とフィールドワークを共に用い、高度な形而上学から市井の民間信仰までを一つながりのものとして捉えられないか、模索している。

著書

『イスラームのとらえ方』(山川出版社)、『イスラーム神秘思想の輝き―愛と知の探求』(山川出版社、今松泰との共著)、編著書に『岩波イスラーム辞典』(岩波書店)、『イスラーム世界研究マニュアル』(名古屋大学出版会)、『イスラームの神秘主義と聖者信仰』(東京大学出版会)、『中東・イスラームへの30の扉』(ミネルヴァ書房)、監修書にティエリー・ザルコンヌ(遠藤ゆかり訳)『スーフィー-イスラームの神秘主義者たち』(「知の再発見」双書152)創元社など。