太陽プラズマ現象と宇宙天気予報 | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

太陽プラズマ現象と宇宙天気予報

太陽面爆発(フレア)の地球と社会への影響

柴田 一成 SHIBATA Kazunari
京都大学大学院理学研究科附属天文台 教授

講義概要

宇宙の通常の物質(バリオン)の99%はプラズマ(電離気体)である。プラズマは磁場と強く相互作用するのが特徴であるが、その振る舞いは複雑で謎が多い。核融合装置は超高温プラズマを磁場によって閉じ込め、太陽の中心部の核融合反応を実験室で実現しようというものであるが、磁気プラズマの複雑さのために、実験開始以来半世紀を経てもなお、核融合が可能となる長時間閉じ込めには成功していない。
近年の天体観測の発展によって、宇宙は爆発だらけであることが判明した。その最も身近な例が太陽の爆発現象(フレア)である。太陽観測から、爆発の原因は磁場とプラズマの相互作用にあることが判明した。基本の物理は核融合装置のプラズマの物理と共通である。
講義では宇宙プラズマ現象の代表例として太陽フレアをとりあげ、爆発の正体、その原因はどこまでわかったか論じる。それに基づいて、実験室核融合プラズマへの応用、さらには爆発の地球への影響を論じる。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

上述のように地上で核融合を実現しようという試みは、実験開始以来半世紀を経てもなお、成功していない。その原因は、磁気プラズマの予想以上の不安定性である。これはまさに太陽の爆発現象(フレア)が発生する原因と同じである。太陽フレアの物理の解明は、核融合閉じ込め実験に有用なヒントを与える。 一方、近年の太陽地球観測の発展により、太陽の爆発現象は地球近傍の宇宙空間や地球高層大気、さらには社会に予想以上に大きな影響を与えていることがわかってきた。フレアが起こると、フレアから強いX線、大量の放射線粒子、高速太陽風が発生し、地球に電離層嵐や磁気嵐を引き起こす。これらにより、人工衛星故障、宇宙飛行士や航空機乗員の放射線ひばく、電波通信障害、地上で大規模停電などの被害が起きることもある。人類の宇宙進出を安全に進め、文明社会を維持していくためには、太陽地球間環境の予測(宇宙天気予報)が緊急の課題である。本研究は宇宙天気予報の基礎を与える。

講師プロフィール

経歴

1977年京都大学理学部卒業。1979年京都大学大学院理学研究科宇宙物理学専攻修士課程修了、1981年同博士課程中退。理学博士(京都大学)。1981年から1991年まで愛知教育大で助手、助教授を歴任。途中、1987年から1年間、米国テキサス大学核融合研究所で客員研究員として滞在し、田島俊樹教授とプラズマ宇宙物理学に関する共同研究。のち田島教授と共著の教科書 Plasma Astrophysics (Addison Wesley)を1997年に出版。1991年に国立天文台に助教授として移り、太陽観測衛星「ようこう」による太陽フレアの観測研究に従事。1994年~1999年には、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻の助教授を併任。1999年に京大に移り現職。2004年より現在まで、附属天文台の台長を兼任。2009年より2011年まで、京都大学宇宙総合学研究ユニットのユニット長。2011年より現在に至るまで同副ユニット長。2001年「宇宙ジェット・フレアにおける基礎的電磁流体機構の解明」により日本天文学会林忠四郎賞受賞。2009年「宇宙天気予報の基礎研究としての太陽活動現象の究明に貢献」という理由により文部科学省科学技術政策研究所「ナイスステップな研究者」に選ばれる。

著書

『太陽の科学』(NHKブックス、2010年)、共編『総説宇宙天気』(京大出版会、 2011年)、『太陽大異変』(朝日新書、2013年)、『とんでもなくおもしろい宇宙』(角川書店、2015年)など。

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