ELPに期待すること

京都大学では、エグゼクティブ・リーダーシップ・プログラム(ELP)という社会連携の試みを行っています。このプログラムでは、我々が「八思」と呼ぶ学術基盤となる知識と知恵を身につけ、それを世界に発信できるリーダーを育成します。
日本は、1960年代から現在に至る約50年間、急速な変化を遂げてきました。その背景には、徒手空拳で世界に旅立ち、日本の発展を支えてきた多くの先輩たちがいました。彼らが現場で試行錯誤し、新しい世界を作り上げてきたプロセスは、現在に生きる我々が二度と繰り返すことのできない貴重な経験です。それがあったからこそ、日本が、この世界の中できちんと位置づけられ、経済や社会の発展に繋がったのです。その知恵や経験は我々にとって貴重な財産です。文字に書かれた、あるいは映像になった知識や技術よりも、生身の経験を伝えあう大事さ。しかも成功の経験のみならず、失敗の経験をも伝えあう。
この社会連携プログラムを契機にして、プログラムに参加される皆さんが、一方通行ではなく、双方向に様々な知恵を交換し合うことを始めたい。そして、皆さんが未来の生き方を捉えなおし、各自の活動の場で活かして行くことを願っています。
山極総長インタビューの様子

京(みやこ)「八思」のもつ文明論的意味

京都の地で、務本の学としての「八思」を教え、現場の知恵を語り合うというエグゼクティブ・プログラムを行なうことは、実践的文明論としてたいへん重要です。
私も、ヨーロッパやアメリカ、アジア、アフリカを回ってきましたが、自分自身を説明する時に、自分のことだけではなく、自分が繋がっている地域や人の厚みというものが非常に重要であり、大きな誇りになります。「私は京都から来ました。」と言うと、「ああ、京都はこんな場所で、1200年の歴史があって、そこに様々な人が生活していて、独自の知恵や技術を使いながら、あの素晴らしい文化を築き上げてきたんですね。」と分かってもらえる。その中に自分が居るわけであって、私という個人が、伝達者として語らい、交渉できることが、自然に備わります。人々の見る目も変わってきますし、話の厚みも変わってくる。話題も豊富になり、まったく文化の異なる人たちと一緒にいても、様々な点で話ができ、お互いに心からの交流ができる。だから、京都という地で、この新しいエグゼクティブ・プログラムが育ち、さまざまな可能性が開けることは嬉しいことです。
「八思」の中の「芸術」については、茶道や華道、書道など、京都にその中心がある分野では、京都の中から一流の先生をお呼びして一緒にやっていきたいと思っております。京都は、世界の中のどの都市よりも、自分が世界一だと思っている人の密度が高い所です。それは、京都という歴史の厚みの中で、自分を見つめることができるからです。「日本の中で」というよりも、「世界の中で」ということが直接繋がっている。この技術を持っている人間は世界に私しかいないんだと。そんな誇りの中で暮らしていますから。それが一つの教示になって、非常に高度で質の高いものが伝えられるのだろうと思います。

社会を変革していく力は、人間の創造性にある

私は、異分野の方々と話をするのがとても好きです。そのことによって、世界の見方が変わるからです。ただ、その見方をすぐ受け入れるのではなく、自分の分野と相手の分野を突き合わし、相手からの提案を自分の分野から見返してみて、新しい提案をする。そんな共同作業が必要です。それぞれが、異なる意見を持っているから新しい発見ができるし、違う世界が重なり合うからこそ、そこから新しい考えが育つ。私はそう思うのです。
これから社会を変革していく原動力は、「新しさ」つまり人間の創造性です。この創造性とは、一つの学問領域の中では認められないものです。色々な学問を合わせた中に新しい発想が生まれる。新しい試みが提案できるし、自分の学問とすることができる。それは、挑戦です。さまざまな学問領域を俯瞰しながら、新しいことを考える。個別の学問を繋げることによって、どれだけ新しい創造的な物ができるのか。それを今の社会は必要としています。ELPの今後の発展に心より期待しております。

平成二十七年二月 山極壽一談より