日本人の死生観の行方

未来に役立つ価値観は守るべき

カール ベッカー Carl BECKER
京都大学学際融合研究推進センター
政策のための科学ユニット 教授

講義概要

(前半:環境編)持続可能な資源供給や環境保全が、日本のみならず世界の共通課題である。資源の無い江戸時代の日本がこれらの問題を解決しえたのは、科学技術よりも価値観の共有の結果と言えよう。持続可能な資源供給や環境保全が地球全体の喫緊の課題である現在、日本の経験智や伝統的価値観を参考にすると、見えて来るものが多い。
(後半:医療編)医療福祉では、在宅介護の暴力、病院看護の燃え尽き、医療赤字や医事訴訟など、問題が山積している。それぞれの問題の解決に人文系の研究が貢献できる側面に注目したい。働く人間にとっては、最終悪は身体的な死よりも、生きがい感の損失や、精神的疲弊ではなかろうか。死を考えることによって、新たな価値観が浮き彫りになる。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

世の中を変えるのは、科学技術そのものよりも、人間の願望(=価値観)であろう。スマホや自動車が社会を変えるというよりは、「使いたい」という願望(=価値観)が生じて初めて4HDや自動車が売れ、社会を変えることにつながる。ただ、スマホや自動車を増やしたところで、自閉症や公害のような問題も生じる。つまり技術で世を変えることが100%望ましいとは限らないのである。プリウスの燃費がよいのは、ハイブリッド技術だけでなく、運転の仕方と運転手の価値観をも変えるフィードバック・システムが導入されているからである。
産業の利益追求で物の見方や生きがい感を歪曲するよりは、持続可能な物の見方や生きがい感を基盤として、それに見合う物を作る方が、金銭的利益のみならず、納得行く未来の生き方につながる。つまり先見の明から生まれる価値観こそ、世の中を変えると期待する。

講師プロフィール

経歴

1981年ハワイ大学大学院哲学研究科修了、哲学博士( ハワイ大学)。1981年南イリノイ大学哲学科助教授。1983 年大阪大学文学部外国人講師。1986 年ハワイ大学教育学部助教授。1988 年筑波大学人文学類哲学思想系外国人教師。1992年京都大学教養部助教授。2003 年京都大学大学院人間・環境学研究科教授。2007年京都大学こころの未来研究センター教授。2017年より現職。諸文化の宗教( 死生観・倫理観)を理解し、治癒方法、倫理道徳、価値体系等の研究を通じて、日本独自の新しい対応方法の可能性を探求している。最近は、医療倫理学、バイオエシックス( 環境倫理学を含む生命倫理学)の問題を中心に研究を進めている。西洋医学の終末期治療等に対し、東洋思想の立場から「離脱体験」研究を行い、全米宗教心理学からアシュビー賞を、1986 年に国際教育研究会(SIETAR) から異文化理解賞を、2018 年にモスクワ精神分析大学院から名誉博士号を授与された。「日本的」な医療倫理と教育実践を目指し、生きがい感と自殺防止の関わり、患者中心のインフォームド・コンセント、ホスピス、ターミナル・ケア等の研究に取り組んでいる。

著書

カール・ベッカー「環境倫理と企業倫理」木村武史編『現代文明の危機と克服』日本地域社会研究所, 15-34頁.(2014年)、『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』晃洋書房(2015 年)、『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』晃洋書房(2015 年)、『佛教と医療の協力関係』自照社出版(2018 年)、その他多数。