「想定の範囲内の差異」の向こう側へ | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

「想定の範囲内の差異」の向こう側へ

文化人類学を通して「あたりまえメガネ」を外してみる

石井 美保 ISHII Miho
京都大学人文科学研究所 准教授

講義概要

近年、あちこちの大学や企業で、多様性の尊重や異文化理解の重要性が喧伝されている。他者理解やコミュニケーション・スキルの向上を目指すための講習なども盛んだ。だが多くの場合、そうした場で想定されている「多様性」や「異文化」は、言語や生活習慣の違いといった「想定の範囲内の差異」であるようにみえる。それらは目的合理性や自律性、効率性といった近代社会の前提を揺るがすものではない。他方で、文化人類学が目を向けてきたのはそうした近代合理性の外側にあるものたちだ。たとえば呪術や儀礼、贈与にアナキズム。近代社会の基準でみれば、それらは意味のわからないもの、取るに足りないもの、ネガティヴなものにもみえるだろう。だが、そうした物事のもつローカルな論理を追究することで、見えてくるものがある。それは、「この私」という強固な主体の座を「降りる」という可能性だったり、既存の国家や制度の妥当性を疑う姿勢だったりするかもしれない。この講義では、主に呪術や憑依にまつわる具体的な事例を取り上げながら、既存の制度や「この私」を維持・拡張していくような思考とは異なる、オルタナティヴな実践や考え方への手がかりを受講生の皆さんとともに考えていきたい。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

目的合理性、自律性、効率性——私たちが知らない間に身につけ、内面化している近代社会の枠組みや規範をカッコに入れてみることで、世界の見え方はおのずと少し変わってくる。それは、「想定の範囲内の差異」の向こう側に出てみることで、自分と世界の「あたりまえ」をずらしてみることでもある。フィールドワークで培われた身体感覚に根ざしつつ、自己のありようを揺さぶる他者との出会いを通して、私たちの日常を規定するさまざまな前提を相対化してきた文化人類学の思考法を学ぶことで、近代社会の「あたりまえ」に収まらない新たな発想や関係性へのヒントを見つけることができる。

講師プロフィール

経歴

これまで、アフリカのタンザニアとガーナ、南インドで人類学的フィールドワークを行ってきました。タンザニアでは、「ラスタファリ運動」と呼ばれる黒人運動と、この運動にかかわる都市出稼ぎ民の生活について。ガーナでは、多民族的な開拓移民社会における精霊祭祀と妖術、呪術について。そして南インドでは、「ブータ祭祀」と呼ばれる憑依をともなう神霊祭祀について、調査を行ってきました。主な研究テーマは憑依・呪術・儀礼をはじめとする人々の宗教実践ですが、これと関連して、①村落社会における土地制度と母系制、②宗教実践と交易・商業との関係、③儀礼における身体性とパースペクティヴィティ、④神霊祭祀と環境運動、大規模開発の関係、⑤人間と非人間の社会的なインタラクション 等のテーマについても調査研究を進めています。

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