宇宙に拡がる人類文明 | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

宇宙に拡がる人類文明

フロンティアからフィールドへ

磯部 洋明 ISOBE Hiroaki
京都市立芸術大学美術学部 准教授

講義概要

この宇宙の姿を明らかにしようとする宇宙科学の究極の目的は、この宇宙に生きるわれわれがどのような存在であるのか、どのようにして生まれこの先どうなるのか、という人間にとっての根源的な問いの答えを探し求めることにある。近代科学は地球と生命がこの宇宙の進化の帰結であり、地球環境が宇宙からの影響を今も受け続けていることを明らかにした。太陽系外の恒星に地球と同じような惑星を発見し、地球外生命探査は今や真面目な科学的課題である。そして今、人類は自らの活動範囲をも宇宙へと拡げつつある。人間の活動があるところには、人間とその社会、すなわち人文社会科学が対象とする課題が生まれる。それは単なる新たな社会的課題の解決という意義に留まらない。宇宙という人類にとっての新たな環境は、われわれ自身がまだ知らない人間とその社会のまだ見ぬ性質を明らかにするだろう。その意味で宇宙は人間とその社会を理解したいという知的好奇心に駆動された人文・社会科学にとってのフィールドにもなりつつある。
本講義では、哲学・倫理学、人類学、社会学、宗教学など、様々な人文社会科学分野の研究者と宇宙の出会いから新たな知の営みが創発している宇宙研究の最前線について紹介し、この宇宙に発生した人類文明の長期的な展望について議論する。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

宇宙という未知の、新しい環境で行きてゆく人間は、生命工学やロボット工学などの技術駆使して生命そして人間自身を変えてゆき、さらには今の地球上にあるものとは異質の社会システム、倫理、思想、文化を生み出して行くだろう。それは、複雑性と多様性を育み続けてきた宇宙の歴史という大きな視点から見れば、ある種の必然的な進化のようにも思える。 人類の宇宙進出はしばしば夢や希望といった言葉で語られるが、グローバリゼーションに伴う文化の均質化と、地球=グローブに閉じ込められた閉塞感に覆われつつある現代人にとって、それはある種の希望だということはできるだろう。だがそれが同時代及び予見可能な未来に生きる個々の人間の幸福につながるかと問われれば自明ではない。 畢竟、宇宙を考えることは、人類は科学技術を駆使してどこまで自身を変えてゆくつもりなのか、われわれはどこに向かっているのか、向かいたいと思っているのかという問いに向かい合うことなのである。

講師プロフィール

経歴

1977年神奈川県生まれ、主に岡山県育ち。2000年京都大学理学部卒業、2005年京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻博士課程修了。2005年度から2008年度まで日本学術振興会特別研究員(PD)として東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻に在籍し、その間英ケンブリッジ大学応用数学理論物理学部及び独マックスプランク太陽系研究所で滞在研究。2008年に京都大学に新設された宇宙総合学研究ユニットに着任。2015年から現職。専門は宇宙物理学、特に太陽活動とその地球への影響の研究。宇宙総合学研究ユニットに着任後は人文社会科学系を含む他分野の研究者と連携した学際的な宇宙研究の開拓を手がけ、宇宙人類学、宇宙倫理学、古文献を用いた天文学、宇宙を題材にした教育プログラム開発、現代社会における科学と宗教などの研究を立ち上げた。様々な科学コミュニケーション活動も行っており、お寺で科学者、お坊さん、市民が語り合う「お寺で宇宙学」や、アート、マンガ、落語、お茶、お香、書道、陶芸など様々な分野の専門家とコラボした企画を手がける。平成21年度文部科学大臣表彰・若手科学者賞受賞。

著書

『最新画像で見る太陽』ナノオプトニクスエナジー出版局(2011年 共著)、『宇宙人類学の挑戦』昭和堂 (2014 年 共著)、『宇宙を生きる〜世界を把握しようともがく営み』小学館(2019 年)など。

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