仁科芳雄とその弟子たち | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

仁科芳雄とその弟子たち

知識生産の場と その指導者の歴史学的研究

伊藤 憲二 ITO Kenji
京都大学大学院文学研究科 准教授

講義概要

新しい知識の生成は社会や経済の発展の原動力の一つである。だが、そもそも知識とはどのように生み出されるのだろうか。新しい知識は定義からして知られていないものである以上、それを生み出す確実な方法はない。しかし、歴史を繙くことで、過去の様々な事例を研究することはできる。近年の科学史研究の成果の一つは、知識を生み出すのは個人の営みではなく、集団的な社会的な営みだということである。戦前の日本においてもっとも活発な知識生産を行った集団の一つは、財団法人理化学研究所において物理学者・仁科芳雄が率いたグループである。この講義ではこの仁科芳雄と彼の研究グループに焦点をあて、どのような集団・場所において創造的な知識生産が可能になるのか、それを率いる指導者のあり方はどのようなものかを考える。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

本研究は、戦前から終戦直後まで、日本の科学、とくに物理学の研究の発展に大きな役割を果たした仁科芳雄に関する歴史研究である。現在、日本は国際的な物理学研究において主要な国の一つと言ってよいが、日本の物理学者がこのような地歩を占め始めるようになったのは1930年代のことである。その過程において重要な役割を果たしたのが仁科芳雄であったことはしばしば言われてきた。しかし、実際に仁科芳雄が何を行い、それがどのように日本の物理学の発展に寄与したのかは明らかではなかった。この研究はそれを明らかにすることを通して、知識生産の社会的な仕組みの一面を明らかにするものである。

講師プロフィール

経歴

東京大学教養学科卒、同大学理学系研究科修了、ハーバード大学科学史学科博士課程修了。東京大学先端科学技術研究センター、同大学院情報学環、総合研究大学院大学を経て現職。20世紀日本の物理学、とくに量子物理学を中心に科学技術史、知識のグローバルヒストリーを研究している。日本における量子力学の導入を主要な研究とし、学位論文および指定した教科書のほか、次の出版物がある: Kenji Ito, “Early Japanese reactions to the interpretation of quantum mechanics, 1927-1943,” Olival Freire, Jr. ed., Oxford Handbook of the History of Quantum Interpretations( Oxford University Press,2022), 687-707。この数年の間、科学と外交をめぐる歴史研究を手掛け、2021年に国際誌に二つの特集号を共編したほか、次のような出版物がある: Kenji Ito, “Transnational scientifi c advising: Occupied Japan, the United States National Academy of Sciences and the establishment of the Science Council of Japan,” British Journal for the History of Science (2023), forthcoming; Kenji Ito, “Three tons of uranium from the International Atomic Energy Agency:diplomacy over nuclear fuel for the Japan Research Reactor-3 at the Board of Governors’ meetings, 1958‒1959,”History and Technology 37(1) (2021), 67-89; Kenji Ito, “The scientifi c object and material diplomacy: The shipment of radioisotopes from the United States to Japan in 1950,” Centaurus 63(2)( 2021), 296-319。さらに最近は、日本における学術雑誌の歴史についての研究を行っている。

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