薬の過去・現在・未来

人々が薬に求めること。薬が起こしてしまうこと。

金子 周司 KANEKO Shuji
京都大学大学院薬学研究科 教授

講義概要

人類は太古より、苦痛と死から逃れようと草木などの天然物に薬効を求め、経験的に取捨選択を続けてきた。20世紀に訪れた化学の発展によって、人類は自由自在に化合物を合成することができるようになった。さらに医学の発達によって人体の仕組みと病気のメカニズムが急速に解明され、今まさにそれらの成果として新しい薬が爆発的に増加している。その結果、現代では薬物治療によって多くの疾患・症状を征圧できるようになり、人類の欲望はさらなる不老不死を求めている。
一方、生体にとって異物である薬物は有害な副作用を常にリスクとして有し、時に薬物は麻薬や毒として悪用される時代になった。
本講義では人類の英知が結集した薬学の光と影を講演者の研究から紹介する。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

本講義ではまず歴史的に見て現代が「薬」という工業製品の特異な転換点にあることを伝えたい。これは薬物治療の可能性が急速に広がった結果、その限界や弊害、将来的な課題も見えてきたことを意味する。
次に、「薬には必ず副作用が伴う」という知識は誰もがうすうす知っていることではあるが、「なぜ?」という問いに対してこれまでの薬学はあまり答えてこなかった。薬理学は生体と薬物の相互作用を知る学問であり、薬の好ましい主作用だけでなく有害な副作用に対しても科学的解明は進んでいる。
本講義ではその実例とともに、「臨床情報を用いて副作用を利用した創薬」が可能になる研究を例にして、薬の未来を考えてみたい。

講師プロフィール

経歴

1958年長野市生まれ。1980年京都大学薬学部卒業。1985年京都大学大学院薬学研究科博士課程修了、薬学博士。1985年富山医科薬科大学(現、富山大学)助手、1988年京都大学薬学部助手、1992年同助教授を経て、2004年より京都大学大学院薬学研究科教授。専門は分子神経薬理学。1995年日本薬理学会学術奨励賞「卵母細胞翻訳系を用いたレセプター・イオンチャネルの機能解析」受賞。
研究は主に「痛み」に関係する生体メカニズムや創薬を中心に行ってきたが、社会問題となった危険ドラッグなど依存性薬物についても多数の事件事故の捜査・裁判に協力してきた。2012年より2016年まで日本薬理学会理事、2013年より2015年まで日本薬学会理事を務める。1993年より分野横断的なライフサイエンス辞書プロジェクトを主宰。生命科学で用いられる専門用語を独自の手法で収集・データベース化し、無料のネット辞書を公開している(lsd-project.jp)。最近ではその辞書資源を医療情報のビッグデータ解析に応用し、そこから得られる仮説を基礎研究で立証する「リバース・トランスレーショナル・リサーチ」を提唱・開拓している。