医療・健康系データベースを用いた新しい医学研究

社会における医療の意義と健康の価値

川上 浩司 KAWAKAMI Koji
京都大学大学院医学研究科 教授

講義概要

疫学とは、個人ではなく集団を対象として、主として健康状態にかかわる様々な要因と健康状態との因果関係を明らかにする学問である。昨今のIT技術と環境の進歩によって、いままでは二次利用されてこなかった医療や健康の情報のデータベースが構築されるようになった。これによって、疫学研究は、医療系のビッグデータあるいはリアルワールドデータを用いた新しいパラダイムを迎えている。さらに、疫学と計量経済学の出会いによって、医療や医薬品の費用対効果を新たな価値として検討することができつつある。このような変革は、医学研究のあり方を根本から変えつつあり、健康や医療の評価、産業や政策への寄与といった様々な展開を見せつつある。本講義では、このような医療系データをめぐる状況や研究事例を俯瞰する。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

疫学研究によって、19世紀にはイギリスはコレラによる国家存亡の危機から救われ、また日本の研究者によって、日露戦争当時数十万人の死亡者をだしていた脚気が栄養によるものだということが突き止められて、世界の多くの人々を脚気による死亡から救った。後者は、ビタミンB1の発見の実に27年前のことである。このように、社会の現状をスナップショットのように情報収集して横断研究として解析する疫学研究は何度も社会を救ってきたが、今後、ITの進歩によって、人間の一生もふまえて時間軸を俯瞰する縦断研究としての疫学研究もより身近なものとなり、健康や医療、社会福祉の向上に寄与するインパクトをもつ。

講師プロフィール

経歴

1997年筑波大学医学専門学群卒(医師免許)、2001年横浜市立大学大学院医学研究科頭頸部外科学卒(医学博士)。米国連邦政府食品医薬品庁(FDA)生物製剤評価研究センター(CBER)にて細胞遺伝子治療部臨床試験(IND)審査官、研究官を歴任し、米国内の臨床試験の審査業務および行政指導に従事。東京大学大学院医学系研究科客員助教授を経て、2006年に33歳で京都大学教授(大学院医学研究科社会健康医学系専攻・薬剤疫学)。2010年~2014年京都大学理事補(研究担当)、2011年より京都大学学際融合教育研究推進センター・政策のための科学ユニット長。現在、慶應義塾大学医学部客員教授などを兼務。原著論文は150報以上。主な公的活動経験として厚生労働省データヘルス・審査支払機関改革本部アドバイザリー(2018年)、内閣官房健康・医療戦略室医療情報取扱制度調整WG委員(2016年)、文部科学省科学技術審議会戦略的基礎研究部会臨時委員(2015年)、内閣府健康研究推進会議アドバイザリー会議委員(2009年)、経済産業省産業構造審議会研究開発小委員会委員(2009年)。学術学会活動として日本臨床疫学会理事、日本薬剤疫学会理事、日本臨床試験学会理事、医療データベース協会理事、健康・医療・教育情報評価推進機構常務理事、ヘルスケア・データサイエンス研究所理事、国際医薬経済アウトカム学会日本部会評議員。