岸 政彦 KISHI Masahiko
京都大学大学院文学研究科 教授
講義概要
社会学における質的研究、特に「生活史」の調査研究について概説し、「他者」の人生とその理解についてじっくりと考える。鍵となるのは「合理性」という概念である。生活史(個人の生い立ちや人生の歴史)は、いわば行為選択の連鎖と蓄積である。私たちは生まれてからずっと、日常的に「選択」というものをし続けている。そして私たちの人生の選択には、そのつど切実な「理由」がある。合理性概念を媒介として、こうした他者の人生の切実な「理由」と「意味付け」について考えたい。
世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか
私たちの社会はますます不寛容になっている。しかしこの社会には、多様な人びとが事実として存在する。たしかに多様な「他者」の理解は容易ではない。そもそも、他者の感情や意味を、そのまままるごと理解することはできない。
しかし私たちは、他者と言葉を交わし、その人生のごく一部についてでも、想像し、共感することはできるはずだ。どのように他者と交わり、他者を包摂し、他者とともに生きるかは、現代社会が抱えるもっとも切実な課題である。この講義ではこの課題について考える。
講師プロフィール
経歴
沖縄の出稼ぎとUターンにおけるアイデンティティ、階層格差、インフォーマルな共同性、沖縄戦と所有権の解体、沖縄的規範の歴史的構築などのテーマで、長年にわたり沖縄において個人の人生を聞き取る「生活史調査」を続けてきた。同時に、「個人の語り」そのものについて、理論的な考察を深めている。ここ数年は自らが暮らす大阪を舞台に小説も刊行し、織田作之助賞を受賞した。