野生動物保全論 | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

野生動物保全論

多様な生物の「世界」から学ぶ楽しさ

幸島 司郎 KOHSHIMA Shiro
京都大学野生動物研究センター 教授

講義概要

現代は生物史上例のない大量絶滅時代ともいわれている。特に哺乳類を始めとする中・大型動物は生息地破壊や密猟のため、その多くが絶滅危惧種となっている。京都大学野生動物研究センターは、このような中・大型動物の保全研究を主な目的として設立された。現在、30名以上の大学院生や若手研究者が、世界各地でゾウやバク、イルカ、アザラシなど、様々な野生動物の野外研究を行なっているほか、多くの動物園・水族館と連携して、飼育されている貴重な野生動物に関する共同研究を進めている。
本講義では、ヒトと野生動物との共存にとって最も必要なことは、それぞれの動物の生きる論理や都合、彼らの認識する「世界」をよく理解することであり、それは同時に、新たな発想やヒトというユニークな動物の深い理解にもつながることを、実際の研究例を通じて学ぶ。最後に「知恵の宝庫」でもある生物多様性を守り・楽しむ社会をいかに築くかについて全員で討論する。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

日本国内だけで160以上の動物園・水族館、100以上の植物園があることからもわかるように、我々人間には、他の生き物を見たり、触れ合ったり、彼らについて知ること自体に喜びを見出す性質がある。しかし現状では、これらの施設のほとんどは主に娯楽を目的とした施設であり、研究や教育、保全にはあまり役立っていない。 そこで我々はアマゾンなどの野生動物生息地に、地域の野生動物や自然環境の研究・教育・保全に貢献できるばかりでなく、地域経済にも貢献できる新世代の動植物園「フィールドミュージアム」を創り、日本や世界に広げようとしている。フィールドミュージアムの実現と拡大が、自然をうやまい、親しみ、理解し、楽しむ日本的価値観と文化の再生・強化、さらに、自然とのふれあいや理解、環境保全に、もっとお金や人を投資する経済・社会システムの創生とその世界への拡大に貢献できると考える。

講師プロフィール

経歴

1955年 名古屋市に生まれる。1974-1985年 京都大学理学部入学と同時に山岳部に入部。山登りに精を出し過ぎたためか、学部6年大学院5年(動物学教室)の長い学生生活を送ることになる。1985-1989年 日本学術振興会奨励研究員および特別研究員。1989-1990年 無職時代(自称フリーサイエンティスト)。立山やアマゾンへ出稼ぎに行ってしのいだ。1990-2008年 東京工業大学理学部助教授、後に大学院生命理工学研究科准教授。2008年より 現職。2011年よりセンター長。 専門は動物行動学、生態学、雪氷生物学。大学生のころ、雪の上をごそごそ歩き回っている雪虫を研究するうちに「氷河にも虫がいるかも知れない」と妄想するようになり、1982年に初めてヒマラヤへ。運良く、氷河に住む昆虫やミジンコを世界で初めて発見し、氷河にも生態系があることを明らかにした。以来、世界各地の氷河生態系を調査し、その特性や地球規模の環境変動に対する影響を研究している。同時に、「自分の目で見て自分の頭で考える、流行に流されない独創的な研究」をモットーにして、イルカやオランウータン、バク、オオカミ、インコ、ヒト、植物、微生物など、熱帯雨林から雪氷圏、海洋に至る様々な生態系の様々な生物の生態や行動を、学生と共に幅広く研究している。日本動物行動学会、日本生態学会、日本哺乳類学会、日本雪氷学会、米国地球科学連合に所属。

著書

著書に『山の世界 -自然・文化・暮らし-』(共著)岩波書店 (2004年)、『虫たちがいて、ぼくがいた』(共著)海游舎(1997年)、“The Patagoinian Icefields: A unique natural laboratory” Kluwer/Plenum New York (2002年)など。

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