免疫システムから老年病を考える

高齢化社会;老化の生理と病理をめぐって

湊 長博 MINATO Nagahiro
京都大学 総長

講義概要

 老化の定義はむずかしいが、生物には種に固有の寿命(ライフスパン)があり、その時間軸に基づく個体の変化として考える限りそれは生理である。他方加齢に伴い諸組織の機能障害が病的に顕在化することがあり、加齢随伴疾患(老年病)と総称される。加齢に伴い最も大きな質的変容を示す組織は免疫システムであり免疫老化といわれる。免疫老化自体は免疫システムの恒常性維持のために不可避の生理プロセスだが、近年これが様々な老年病発症の重要な素因となっていることが示唆されてきている。本講義では免疫システムの視点から、最新の知見に基づいて老化は生理か病理かというむずかしい問題にアプローチし、議論を深めたい。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

 人口の高齢化の進行は、いまや地球上のほぼ全ての国の不可避的現象である。特に日本はその先陣をきっており、2050年の老年人口(65歳以上)の割合は、35%以上と予測されている。この社会全体への影響は甚大である。ひとつは社会経済の仕組みそのものへの影響で、抜本的な再構築を余儀なくされるであろうし、同時にこれに伴い、各年代の個々人の生活様式も不可避的に大きな変容を迫られることになろう。このような背景の中で、老化の生物学と老年病についての理解を深めることは、それへの社会の対応を考える上で、単なる医学を越えた本質的な課題と考えられる。私たちは人間の生理と病理の境界で多くの困難な決断と合意を迫られることになるだろう。

講師プロフィール

経歴

医学博士(京都大学)。専門は免疫学。1975年京都大学医学部卒業。米国アルバートアインシュタイン医科大学研究員、自治医科大学内科助教授を経て、1992年京都大学医学部教授。2010年京都大学医学研究科長・医学部長、2014年京都大学理事・副学長、2017年よりプロボストを務めた後、2020年10月より第27代京都大学総長。免疫細胞生物学の多彩な基礎研究を展開、220編余の英文原著論文を発表。2018年度ノーベル生理学・医学賞受賞者本庶佑教授の共同研究者として新しいがん免疫療法の開発にも貢献。2014年JCA-CHAAO Award、2016年創薬科学賞、2018年岡本国際賞など受賞。