グローバルな脅威としての感染症の科学

新興・再興感染症を微生物学・免疫学・社会学的に考える

光山 正雄 MITSUYAMA Masao
京都大学 名誉教授

講義概要

この1世紀あまりの間に医学は飛躍的に発展し、多くの診断法、治療法、予防法が開発されてきました。それでもなお、人類は今も多くの疾患に苦しめられ健康な生活が脅かされ続けています。ガンや成人病は現代人が最も恐れる疾患ですが、太古の時代から人間を苦しめてきた感染症は今なお全地球規模では最も重大な疾患であり、発展途上国では死亡原因の第一位を占めています。赤痢や腸チフスなど戦前に猛威を奮った古いタイプの伝染病は、先進国では最早脅威ではなくなりましたが、新たに勃興する新興感染症はその発生予測が困難で、また、伝播を抑制する確実な方法も確立されてはいません。この講義では、現代の感染症はどのような状況にあり、近代医学がもたらした抗菌薬や予防接種ワクチンがありながら、何故感染症を撲滅できないのか、微生物側はどのような進化を遂げて生存し続けるのか、高度に発展した現代社会の構造は感染症の発生や蔓延にどのように関わっているか、などについてわかりやすく解説したいと思います。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

年明け早々、中国・武漢に発した新型コロナウイウルス感染症(COVID-19)は瞬く間に湖北省を席巻し、中国全土から徐々に南極大陸を除く世界の5大陸に拡大しました。横浜に接岸し閉鎖検疫を受けたクルーズ船内で見られた集団感染の勃発と水際作戦の失敗による国内各地への感染の伝播は、医療先進国であるはずの我が国の新興感染症に対する脆弱性を図らずも露呈した形になってしまいました。20年ほど前までは単なる風邪(普通感冒)の原因ウイルスの一つにすぎなかったコロナウイルスが、2003年にSARSを、そして2012年にはMERSを引き起こすようになったのは何故か、今回のCOVID-19と関連付けて考えることが必要です。今回推奨されたマスク着用の徹底は、百年も前に全世界で数千万人の死者を出したスペイン風邪で取られた感染予防策と何ら変わりがありません。検疫、封じ込め、などの、期待を持って語られた対応が何故効を奏し得なかったのか、考える必要があるでしょう。加えて、特効薬もワクチンもない中世の時代、人類はどのようにして伝染病の脅威に立ち向かったのか、歴史的な事実も加味してお話しをし、現代社会の抱える脆弱性について皆さんとともに考察したいと思います。

講師プロフィール

経歴

1973年九州大学医学部卒業、医師免許取得。3年間の内科臨床経験の後、九州大学医学部細菌学教室にて病原細菌学の研究を開始し、1978年同教室助手、医学博士号取得。1980年同講師。1981年から1983年まで米国政府給付国際奨励研究員(Fogarty fellow)としてハーバード大学医学部に留学し感染免疫学の研究に従事。1983年帰国後九州大学医学部細菌学助教授。1987年新潟大学医学部細菌学講座教授。1998年京都大学大学院医学研究科感染・免疫学講座微生物感染症学分野教授。2008年~2010年京都大学医学研究科長・医学部長。2013年3月定年退職。2013年4月より総合生存学館特定教授。2014年3月総合生存学館副学館長。現在は、京都大学名誉教授。2015年4月より、京都大学白眉センター・センター長および京都大学次世代研究創成ユニット・ユニット長を兼任。細胞内寄生性細菌の病原因子の分子微生物学、感染防御免疫学を専門研究領域とし、思修館ではグローバル感染症学・生体防御学を担当。日本細菌学会、日本免疫学会、日本生体防御学会各役員、日本感染症学会、日本結核病学会会員。米国微生物学会、欧州微生物学連盟正会員。1999年小島三郎記念文化賞受賞。2009年浅川賞(日本細菌学会最高学術賞)受賞。

著書

専門領域での著書・英文原著論文多数。