グローバルな脅威としての感染症の科学 | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

グローバルな脅威としての感染症の科学

新型コロナウイルス感染を中心にパンデミックを考える

光山 正雄 MITSUYAMA Masao
京都大学 名誉教授

講義概要

 一昨年の年末、中国・武漢に発した新型コロナウイウルス感染症 (COVID-19)は瞬く間に湖北省を席巻し、中国全土から徐々に南極大陸を除く世界の5大陸に伝播拡大し未曾有のパンデミックとなりました。中国本土では極めて厳しい都市封鎖とPCR検査の徹底、感染病棟の即成建設により何とか危機的状況を乗り切った一方、医療先進国であるはずの欧州各国や米国でも拡大の一途をたどる結果となりました。我が国でも欧米の規模には至らなかったものの、都市部での波状拡大は医療崩壊の危機に迫る勢いを示しました。必ずしも確実な収束に結びつかない緊急事態宣言と行動自粛要請により日常経済は極めて大きな打撃を被り、パンデミックが単に疾患、医療面の問題にとどまらず、あらゆる社会活動を阻害抑制するグローバルな脅威となることを実感させられました。
 本講義では、人類が過去遭遇した地球規模でのパンデミック感染症の幾つかの事例を挙げ、その病原体の微生物学的特性と、医学が未発達の時代に人類はどのように対処し何を学んできたのかを解説します。その上で、今回のCOVID-19の原因ウイルスはどのように出現し、何故これほどまでに伝搬拡大することになったか、仮説も含めて考えてみたいと思います。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

 我々人類は、数千年にわたって常に発展を希求してきました。とくに産業革命以降の科学技術の進歩は、食物生産、エネルギー生産、交易流通、利便性の向上に大きく貢献し、数百年前には想像もできなかった文明を手中におさめてきました。しかしながら現代のような文明社会にとって容易ならざる脅威として、今なお自然災害が立ちはだかり、異常とも言える急速な地球人口の増大は新たな格差と対立を生んできています。人類が古来苦しめられてきた数多くの感染症は、この1世紀の間の医学医療の進歩発展によってもたらされた抗菌薬、抗ウイルス薬、予防ワクチンによって、最早メジャーな脅威とは考えられないほどにまで抑え込まれたように見えていました。しかしながらCOVID-19のパンデミックを経験してみると、現代の医学医療が如何に不十分なものであったかを痛感させられます。新種の感染症の発生の背景には、病原体側の遺伝的多様性に加えて、人間社会と野生世界の距離の縮小、病原体の生息環境の変化などがあり、また発生した感染症の伝播拡大には、海運・航空機の発達による地球規模でのヒトおよび物資の移動の迅速化大量化が大きく関与しています。医学の世界の問題でしかなかった感染症がパンデミックを引き起こす背景に、どのような社会的構造があるのか、を理解することが、これからの健康な人間社会をグローバルに維持していく上で極めて重要になります。社会の発展が同時に社会の脆弱性にも関与する可能性を考えてみましょう。

講師プロフィール

経歴

1973年九州大学医学部卒業、医師免許取得。3年間の内科臨床経験の後、九州大学医学部細菌学教室にて病原細菌学の研究を開始し、1978年同教室助手、医学博士号取得。1980年同講師。1981年から1983年まで米国政府給付国際奨励研究員(Fogarty fellow)としてハーバード大学医学部に留学し感染免疫学の研究に従事。1983年帰国後九州大学医学部細菌学助教授。1987年新潟大学医学部細菌学講座教授。1998年京都大学大学院医学研究科感染・免疫学講座微生物感染症学分野教授。2008年~2010年京都大学医学研究科長・医学部長。2013年3月定年退職。2013年4月より総合生存学館特定教授。2014年3月総合生存学館副学館長。現在は、京都大学名誉教授。2015年4月より、京都大学白眉センター・センター長および京都大学次世代研究創成ユニット・ユニット長を兼任。細胞内寄生性細菌の病原因子の分子微生物学、感染防御免疫学を専門研究領域とし、思修館ではグローバル感染症学・生体防御学を担当。日本細菌学会、日本免疫学会、日本生体防御学会各役員、日本感染症学会、日本結核病学会会員。米国微生物学会、欧州微生物学連盟正会員。1999年小島三郎記念文化賞受賞。2009年浅川賞(日本細菌学会最高学術賞)受賞。

著書

専門領域での著書・英文原著論文多数。

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