小胞体ストレス応答

私達の細胞が持っている驚異の復元力

森 和俊 MORI Kazutoshi
京都大学大学院理学研究科 教授

講義概要

生き物の基本単位は細胞で、その中に存在する最重要物質は、DNA(遺伝物質)とタンパク質(生命活動の担い手)です。生命活動の基本はDNA に書き込まれた暗号を解読してタンパク質を正しく作りつづけることと言っても過言ではありません。また、体内には多数の臓器が存在する様に、細胞の中には小さな臓器(細胞内小器官)が多数存在し、役割分担しています。小胞体は細胞内小器官の一つで、タンパク質の製造工場という役割を果たします。この工場はかなり優秀ですが、それでも時にうまく機能しなくなり、不良品タンパク質がいつも以上にできてしまうことがあります。この状態を小胞体ストレスと呼んでいます。この悪くなった状況を元に戻そうとする細胞の復元力(小胞体ストレス応答)の仕組みと意義をお話しします。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

小胞体ストレス応答は、生命活動の担い手であるタンパク質の立体構造を保証することによって、様々な生命現象や生物進化を裏から支えていることが明らかになってきました。小胞体ストレス応答が働かないと私達は生まれてくることさえできません。小胞体ストレスもしくは小胞体ストレス応答が様々な病気の発症や進展に関与すると考えられています。糖尿病、アテローム性動脈硬化、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患、心不全や心筋症、肥満や代謝性疾患、炎症性腸炎、がんやウィルス感染等です。私達基礎研究者が解明した仕組みを使った創薬が始まっています。この応答は老化にも関与しており、健康寿命を延ばすことができるようになるかもしれません。

講師プロフィール

経歴

1958年岡山県倉敷市生まれ。1981年京都大学薬学部卒業。1983年京都大学大学院薬学研究科修士課程修了。1985年京都大学大学院薬学研究科博士課程退学。1987年京都大学薬学博士。1985年岐阜薬科大学助手、1989年米国テキサス大学博士研究員。1993年エイチ・エス・ピー研究所副主任研究員・主任研究員。1999年京都大学大学院生命科学研究科助教授。2003年より京都大学大学院理学研究科教授。
小胞体ストレス応答研究の開拓者として、2005年米国ワイリー賞、2006年日本生化学会柿内三郎記念賞、2008年大阪科学賞、2009年カナダガードナー国際賞、2010年紫綬褒章、2012年上原賞、2014年朝日賞、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞、香港ショウ賞、2015年トムソン・ロイター引用栄誉賞、2016年恩賜賞・日本学士院賞、2017年ブレークスルー賞、2018年文化功労者、2019年安藤百福賞大賞。

著書

『細胞の中の分子生物学』講談社ブルーバックス(2016年)