家族関係の多様化と個人のアイデンティティ

多文化主義の視点からみた国家法と宗教規範の協働

西谷 祐子 NISHITANI Yuko
京都大学大学院法学研究科 教授

講義概要

欧米では,多数のムスリム移民が中近東から流入する中で,本国でなされた一夫多妻婚や夫による妻の追い出し(タラーク)離婚などの効力を認めてよいか否か議論されている。日本でも,ミャンマー人のムスリム夫婦が国内でタラーク離婚を行い,その有効性が問われた事件がある。このように一国内で,多数派と異なる社会規範や宗教規範に従う者が増えてくると,いかにして受入国の基本的価値や社会秩序を維持しつつ,移民のアイデンティティを尊重して多文化共生を図るかが重要な課題となる。本講義においては,欧米での移民をめぐる家族関係の規律,及び国家法と宗教規範の協働について学ぶことで,今後日本においてどのように渉外的な家族関係を規律し,多文化主義を実現するか考察する。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

本講義に触れることで,イスラーム教やユダヤ教などの宗教規範に根差した家族関係の規律のあり方について多角的に学ぶことができるほか,今後の日本の移民政策を考えるきっかけにもなると思われる。日本は,少子高齢化が進む中で人手不足を解消するため,多数の外国人労働者を受け入れてきたが,彼らの多くはコロナ禍の下で深刻な困窮状態に陥った。これは,日本が外国人に安定した滞在許可や社会保障等を確保せず,正面から移民政策の是非を議論しないまま,窮余の策として多数の外国人を受け入れてきた結果である。本講義を通じて,広く欧米での多文化主義をめぐる議論に触れることで,今後の日本が進むべき方向性を考えるきっかけとなるであろう。

講師プロフィール

経歴

京都大学大学院法学研究科・教授。東北大学准教授,九州大学教授を経て,2015年から現職。国際私法・比較法・家族法を専門とする。京都大学法学部卒業,同大学院法学研究科修士課程修了後,ハイデルベルク大学法学博士(1998年)。ドイツ,フランス,イタリア,オランダ,米国にて長期在外研究。デューク大学及びニューヨーク大学(米国),チューリッヒ大学及びローザンヌ大学(スイス),テルアビブ大学(イスラエル),台湾法官学院等の客員教授を歴任。2020年フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞。
https://cislp.law.kyoto-u.ac.jp/intl_research.htmlも参照。