〈第三の生命〉論および日韓関係

新しい生命論、そして新しい東アジア

小倉 紀蔵 OGURA Kizo
京都大学大学院人間・環境学研究科 教授

講義概要

この講義の1コマ目では、ふたつの別個のテーマを90分(45分+45分)でお話しする。というのは、わたしの専門が①東アジア哲学②朝鮮半島問題および日韓関係、というふたつだからである。
前半は、東アジア哲学に焦点を合わせ、『論語』を読み直してみる。孔子が大切に思った「仁」とは道徳なのではない。それは人間が複数いる場所に偶発的に立ち現われる〈いのち〉のことである。人類はこれまで、肉体的・生物学的な生命と、霊的・宗教的生命の2種類しか明確に認識してこなかった。しかしそれらとは根本的に異なる〈第三の生命〉というものがある。孔子の仁や日本の「もののあはれ」などはその典型である。
後半はうってかわって、現在の朝鮮半島情勢および日本と朝鮮半島の関係という時事的な問題を扱う。今後東アジアはどうなっていくのか。「新しい東アジア」の構築のために、これまでになく日本の役割が大きくなる。国際政治、外交や歴史認識、文明論も含めて、東アジアのなかの日本を考えてみる。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

まず前半の新しい生命論、つまり〈第三の生命〉論は、これまで人類が明確に「生命」とは認識してこなかった現象に対する新しい解釈である。おそらく日本人は平安時代の「もののあはれ」「をかし」以来、このタイプの生命、つまり偶発的に立ち現われる美的な生命にきわめて敏感であった。生命を肉体的なもの、霊的なものから解き放すもうひとつの通路を明確に認識することによって、現代社会のさまざまな問題や個人の生きにくさなどにも新しい回答が得られるだろう。
後半の「新しい東アジアの構築」は、わたしたち東アジアに住む者がいま、もっとも真剣に考えるべき問いのひとつである。冷戦の時期には分断体制によって膠着化していた朝鮮半島がいま、きわめて流動化している。朝鮮半島が不安定になると、19世紀末の状況が再現されることになる。このときに日本はどのように行動すべきか。表面的・時局的な視点だけではなく、文明論的・歴史的視点からみなさんといっしょに考えてみたい。

講師プロフィール

経歴

1959年東京都生まれ。1983年東京大学ドイツ文学科卒業後、電通に勤務。東京コピーライターズクラブ新人賞受賞。1988年に電通退社後、韓国に留学。1993年ソウル大学哲学科修士課程修了(文学修士)、1996年同博士課程単位取得退学。1996年東海大学専任講師、1999年同助教授、2006年京都大学助教授を経て、2012年から現職。専門は朝鮮半島の思想・文化、東アジア哲学。NHKテレビ・ラジオハングル講座講師、「日韓友情年2005」実行委員、「日韓交流おまつり」実行委員、「日韓文化交流会議」委員などをつとめた。現代韓国朝鮮学会会長、比較文明学会理事、地球システム倫理学会理事。

著書

『韓国は一個の哲学である』『韓国人のしくみ』『韓流インパクト』『歴史認識を乗り越える』(以上、講談社)、『韓国、ひき裂かれるコスモス』(平凡社)、『心で知る、韓国』(岩波書店)、『韓国、愛と思想の旅』(大修館書店)、『おれちん』(朝日新聞出版)、『日中韓はひとつになれない』(角川書店)、『ハイブリッド化する日韓』(NTT出版)、『創造する東アジア 文明・文化・ニヒリズム』『〈いのち〉は死なない』(以上、春秋社)、『朱子学化する日本近代』、『北朝鮮とは何か』(以上、藤原書店)、『新聞・テレビが伝えなかった北朝鮮』(共著、角川書店)、『韓国語はじめの一歩』『入門 朱子学と陽明学』『新しい論語』(以上、筑摩書房)、『現代韓国を学ぶ』(共著、有斐閣)など。