日本の経済社会の将来を考える

「経済成長至上主義」という価値観を再考する

佐伯 啓思 SAEKI Keishi
京都大学こころの未来研究センター 特任教授
京都大学 名誉教授

講義概要

この講義は、ある特定の専門分野をテーマに講義するのではなく、今日の日本経済の状況とその将来の方向について、私自身の考えを述べ、それについて皆さんと議論したい。
今日の経済は、グローバル化とイノベーションによって激しい市場競争を展開しており、日本経済もこの競争のなかで、アベノミクスに示される経済成長路線をとっている。しかし、日本は、人口減少社会にはいり、また、いわば成熟社会になりつつある。果たして市場競争が日本人の「幸福」につながるかどうか疑問であり、経済成長主義とは異なった新たな方向を打ち出すべきではなかろうか。本講義では、経済学、経済思想を検討しつつ、現代文明の在り方と日本社会の将来を論じてみたい。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

私は、政治や経済を中心して現代社会の在り方を、「現代文明論」として総合的に研究してきた。今日の世界は、グローバリズムという名のもと、アメリカを中心とした「近代主義」(合理的科学、自由と民主主義の政治、市場競争経済、技術革新、個人主義的な幸福追求など)に覆われつつあり、日本もこのアメリカ型近代主義に巻き込まれている。しかし、果たして、それは日本にとって「幸福」なのか、日本人の価値観の機軸はまた別にあるのではないか、という疑問もある。世界は本来は多様なものであり、それぞれの国の歴史的風土や文化のなかで政治や経済も機能するはずである。この講義(研究)は、その意味で、今日のグローバルな近代主義の反省にたって、より健全な世界へとわれわれの思考を鍛えようとするものである。

講師プロフィール

経歴

1949年奈良県生まれ。東京大学経済学部卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。広島修道大学商学部講師、滋賀大学経済学部助教授、同教授を経て、1993年〜2015年京都大学大学院人間・環境学研究科教授。2015年定年退職、名誉教授。現在、京都大学こころの未来研究センター特任教授。第4期文部科学省中央教育審議会委員。1985年『隠された思考』筑摩書房でサントリー学芸賞を受賞、1994年『「アメリカニズム」の終焉』TBSブリタニカでNIRA政策研究・東畑記念賞を受賞、1997年『現代日本のリベラリズム』講談社で読売論壇賞を受賞。2007年第23回正論大賞を受賞。共生文明学、現代文明論、現代社会論、社会思想史を研究テーマとし、現代社会を文明論的観点から捉え、政治、経済の分野を中心に広く評論活動をおこなっている。

著書

『隠された思考』筑摩書房(1985年)、『「欲望」と資本主義』講談社現代新書(1993年)、『自由とは何か』講談社現代新書(2004年)、『倫理としてのナショナリズム』NTT出版(2005年)、『学問の力』NTT出版(2006年)、『日本の愛国心』NTT出版(2008年)、『反・幸福論』新潮新書(2012年)、『20世紀とは何だったのか』PFP文庫(2015年)、『さらば、資本主義』新潮新書(2015年)など多数。