上原 麻有子 UEHARA Mayuko
京都大学大学院文学研究科 教授
講義概要
「哲学」という学問は、日本では近代の黎明とともに西洋哲学を翻訳により導入することで開かれた。1930年代早くも、西洋最先端の哲学に決して引けを取らない、日本独自の哲学的立場を確立するに至ったのである。京都学派はその役割を担う代表的な知の集団であったと言える。講義では、学派の思想基盤となった西田幾多郎の哲学に焦点を当て、西田による「物を作る」ための技術論を紹介する。また、準備している課題は次の3つである。1. 西洋近代の哲学的パラダイムの乗り越え、2. 人間関係と社会・環境・世界の多様性に基づく西田的技術知の内実、3. 物作りの現実。「物となって見、考え、行う」哲学は、今後の私たちの世界に何か貢献し得るのであろうか。受講される皆様とともに考えてみたい。
世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか
京都学派や西田の哲学が、経世済民であるとは言い難い。しかし1930−40年代、日本が完全に世界に組み込まれた現実のもと、哲学者たちは個人と全体(社会・環境・世界)の複雑に入り組み、矛盾の内在する関係性を、そういうものとして論理化した。あの昭和の歴史はまだ現代の社会・文化の土台としてリアルに生き続けている。パンデミック、地球環境の激変等により、私たちの世界観は大きく変わろうとしている。技術知は、当時の哲学者たちの予測を大幅に超えて、私たちの生活に幸福と危険の計り知れない矛盾をつきつけている。マニュアルはもう通用しない。しかし、やはり世界変革の歴史を生きたの彼らの哲学は、それを更新し続ける思考の深め方、知恵を提供してくれるのではないか。
講師プロフィール
経歴
1994年、パリ第7大学テキスト文献学部修士号取得。2004年、フランス国立社会科学高等研究院博士号(哲学・翻訳学)取得。2005年、フランス大学助教授国家資格取得。2003年-2007年、リヨン第3大学外国語学部日本語学科任期付講師・研究員、および非常勤講師。2006年-2007年、ル・アーブル大学国際学部非常勤講師。2007年-2010年、明星大学日本文化学部言語文化学科准教授、2010年-2013年、同大学人文学部日本文化学科准教授を経て、現職。専門は近現代の日本哲学、翻訳学、女性哲学。
2012年よりJournal of Japanese Philosophy (ニューヨーク州立大学出版) 編集長。2015年より西田哲学会理事、2021年より同学会編集委員長。2016年よりInternational Association for Japanese Philosophy理事。2017年より日本学術会議連携会員。2018‐2019年、京都哲学会代表、会誌『哲学研究』編集責任者。2018年より日本哲学会の欧文会誌Tetsugaku編集委員長。2019年より同学会理事。2013年より西田・田辺記念講演会委員。2014年より暁烏敏賞選考委員会委員。2018年より西周賞選考委員。
著書
「西田哲学の再解釈―行為的直観としての顔の表情」『思想』(2015年11月号)、「「女性哲学」へと向かう九鬼周造著『「いき」の構造』」『幕末明治 移行期の思想と文化』(勉誠出版、2016年 共編著)、Philosopher la traduction /Philosophizing Translation (Nanzan Institute for Religion and Culture/Chisokudō Publications, 2017年 編著) 、"Trends and Prospects in Japanese Philosophy After 1945: The Contemporary Philosophy of Hiromatsu Wataru from Marxist Philosophy to the Theory of Facial Expression", Contemporary Japanese Philosophy A Reader (Rowman&Littlefield International, 2019年 共著)、「創造する翻訳―近代日本哲学の成長をたどって」『近代人文学はいかに形成されたか』(勉誠出版、2019年、共著)、「日本哲学の連続性」『世界哲学史8―現代グローバル時代の知』 (ちくま新書、2020年共著) 。