細胞の声を聞く

たった一つの卵から形ができてくる不思議

高橋 淑子 TAKAHASHI Yoshiko
京都大学大学院理学研究科 教授

講義概要

私達の複雑なからだも、最初はたった一つの受精卵から始まる。受精卵が、2つ、4つ、8つと増えていくうち、気がつけば心臓の拍動が始まっているのだ。そして脳や眼、そして手足の原型がつくられ、それらは休むことなく成長する。このような体作りはどのような仕組みによって支えられているのだろうか?ひとつひとつの細胞は、遺伝子の働きによってどの細胞になるかが決まる(たとえば心臓や骨、神経の細胞など:これを細胞分化という)。と同時に、3次元的な臓器を作り上げるためには、細胞同士のコミュニケーションが必要となる。このような「細胞の社会」がうまく働かないと形作りは失敗し、さまざまな奇形や病気を引き起こす。
本講義では、動物発生にみる細胞の社会をとおして、生命の本質をとらえてみたい。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

発生生物学は、細胞分化や遺伝子の働き、そして臓器形成など多くの生命現象を扱う「統合生物学」です。iPS細胞の発見も、発生生物学から生まれたものです。動物がどのようなしくみで発生するかを解き明かすことは、生命の成り立ちを理解することそのものです。「カエルの子はカエル」という当たり前のことに対し、ではなぜそうなるのかという問には、日々の地道な学問のみが科学的な解答を出すことができます。発生のしくみがほんの少し狂うだけで、さまざまな奇形が生じます。人間社会にみるさまざまな差別が、おろかな「無知」によるものだという事実を突きつけられます。

講師プロフィール

経歴

1988年京都大学理学研究科生物物理学教室博士課程修了(理学博士)。博士学位取得後、日本にいても就職がないのでフランスに脱出。1988〜1991年:フランスCNRS発生生物学研究所研究員。そこでは第二回京都賞受賞のNicole Le Dourain教授の研究室で“ラテン科学の洗礼”を受けることになる。続いて1991年〜1994年:アメリカに移り、オレゴン大学やコロンビア大学の研究員を経て、1994年に帰国(北里大学に理学部が新設されたので)。1998年に創設4年目の奈良先端科学技術大学院大学に移動(助教授)。悲願の関西圏カムバックを果たす。2001年より、神戸に新設されたばかりの理化学研究所発生再生科学総合研究センター(CDB)のチームリーダーとなる。2005年に奈良先端大学バイオの教授に就任。2012年に京都大学に異動。動物学教室にて、ゴリラ研究(現総長の山極教授)やヘビ行動学に触れ、改めて動物学の深さを思い知る。
2014年10月より京都大学理事補(研究担当理事付)兼任。日本発生生物学会運営委員、日本分子生物学会理事、国際細胞分化学会Director。学術誌「SCIENCE」のReviewing Editor (2009〜2013)、文部科学省の科学技術・学術審議会委員(第7期、第8期(2013年〜)。文部科学省日本ユネスコ国内委員(〜2014)、日本学術振興会学術システム研究センター研究員(2007〜2010年)。2010年4月第30回猿橋賞受賞。2016年8月国際細胞分化学会による第5回アン・マクラーレン賞受賞。現在は会議の多さに辟易中。趣味:大阪フィルハーモニー合唱団に所属。大フィル管弦楽団による定期演奏会の合唱付き公演では、舞台の後ろで口をパクパクしている。放送大学特別講義「細胞の声を聞く」が2012年より6年間放映されており、年に数回TVに出没する。