『枕草子』と『源氏物語』の誕生 | 京都大学ELP
京都大学エグゼクティブリーダーシッププログラム

『枕草子』と『源氏物語』の誕生

作品は社会から生まれ、社会を変える

山本 淳子 YAMAMOTO Junko
京都先端科学大学人文学部 教授

講義概要

『枕草子』と『源氏物語』の作品名はよく知られているが、それらが生まれた時代背景については、あまり知られていない。講義では、藤原道長が政権を担ったいわゆる後期摂関制の初期、それぞれの作品がどのような必然性を以て創作されたのかを解説する。一条天皇の正妻・定子が一族内の政争の果てに没落・出家し、后妃としての正当性を失った時、『枕草子』は彼女の悲嘆を慰めるために書き始められた。また定子が崩御した時、天皇の悲嘆を慰めるために書き継がれた。定子の死は社会的事件であり、貴族社会全体を罪悪感や無常観、怨霊への恐怖といった混迷に陥れた。そうしたなかで、『源氏物語』は正面から天皇の責任を糺す作品として生まれた。二作品の時代・社会との相関を考える。

世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

平安文学作品については、花鳥風月を愛でるばかりの悠長で退屈なものというのが、大方の印象であろう。だが、『枕草子』作者・清少納言の執筆の真意は、自らが仕える定子のため―生前はその心を慰め、死後は魂を慰めるためだった。同時にこの作品は、定子を喪った天皇や社会全体の疵を癒した。こうした、作品の果たした社会的意義を考えることは、文学の持つ〈力〉について再考を促すだろう。いっぽう『源氏物語』も、面白おかしい恋愛物語というより、定子亡きあとの混迷した後宮を正常化する目的のために書かれた。その姿勢は中国の漢詩文が目指した所であり、『源氏物語』を支える思想のグローバリズムを見て取ることができる。この研究は従来の平安文学観を大きく変えるだろう。また巨視的には、古典文学作品全体の存在意義について、変革を迫ることになるだろう。

講師プロフィール

経歴

平安文学研究者。石川県出身。京都大学文学部を卒業後、石川県立図書館で自治体史『加能史料』の編纂に関わる。その後、高校教員を務めたのち、京都大学大学院人間・環境学研究科に入学。地域文化研究を専攻し、文学と歴史、宗教の壁を超えた学際的研究を志す。2003年、京都学園大学助教授。2007年、今回の教科書『源氏物語の時代』でサントリー学芸賞(芸術・文学部門)を受賞。2008年、京都学園大学教授。2019年、校名変更により京都先端科学大学教授。

著書

『源氏物語の時代』朝日新聞出版 (2007年)、学術論文集『紫式部集論』和泉書院(2005年)、『紫式部日記と王朝貴族社会』和泉書院 (2016年)、注釈書に『ビギナーズクラシックス 日本の古典 紫式部日記』角川ソフィア文庫(2009年)、『紫式部日記 現代語訳付き』角川ソフィア文庫 (2010年)、教養書に林真理子氏との共著『誰も教えてくれなかった「源氏物語」本当のおもしろさ』小学館新書(2008年)、『平安人(びと)の心で「源氏物語」を読む』朝日新聞出版(2014年)、『枕草子のたくらみ』朝日新聞出版(2017年)など。近著に『古典モノ語り』笠間書院(2022年)。

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