機能回復の脳科学
我々の脳に潜むサブシステム

2020.2.19.Wed. 14:50-18:00

京都大学教授 伊佐正

講義の概要と目的

従来、神経細胞は、肝細胞のように細胞分裂をして増えることはないので、脳や脊髄が一旦損傷を受けると、治療は困難であるとされてきた。近年、幹細胞やiPS細胞の移植によって脳や脊髄の損傷を治療する方法が開発されているが、実際に移植した細胞がどのように働いて機能回復しているかについては未だ明らかでないというのが実情である。一方でリハビリテーションによって機能がある程度回復することは知られており、私たちはもっとこのような「自然治癒」の仕組みについて学ぶ必要がある。私たちはこれまで、ヒトの近縁種のサルを用いて、脊髄の部分損傷の後に訓練によって機能が回復するメカニズムを解析し、損傷を免れた残存する神経回路が機能を代償する仕組み、さらにはそこにモチベーションなどの「心の働き」が貢献する仕組みを明らかにしてきた。今回の講義では、このような研究の概要を解説したい。

この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか

 リハビリテーションが何故有効か、という「機能回復の脳科学」は、つい最近まで未発達の分野であったが、我々も含む多くの研究者の努力によって、機能回復に伴う神経回路の再編機構が、モチベーションの作用なども含めて神経科学の言葉で理解されるようになってきた。これによって、より有効なリハビリテーション法の開発や、薬物療法や細胞治療とリハビリテーションをどのように組み合わせていくのが良いか、などについての治療戦略が生み出されていくことが期待される。

講師プロフィール

経歴
1985年に東京大学医学部医学科卒業。学生時代はボート部で体力をつけ、卒後は外科医としてバリバリ働くつもりでいたのが、学生時代にふとしたことから通い始めた神経生理学の研究室で、実験にはまり、鍛えた体力を基礎研究者として使うことに。研究に向いていなかったら大学院修了時に臨床に戻ろうと思ってもいたのが、その後スウェーデンでの留学、東大での助手、群馬大学での講師・助教授を経て30台半ばで愛知県岡崎市の国立生理学研究所で教授に。ほぼ20年間を岡崎で過ごし、2015年10月に京大医学部に赴任。大学院に入ってからあっという間に30数年の時が過ぎてしまいました。モットーは「人と違うことをする」「粘る、諦めない」「知らないことは他人から習う」。現在、日本神経科学学会(会員6000人)の会長を務めています。

Day22020.2.20 Thu.
心とは何か

Day32020.2.21 Fri.
脳の認知科学

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